御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 そういう話だ。冷静に分析して動揺を必死に抑え込む。

 そこでパソコンがいつもの呼び出し音を立てた。そのタイミングで芽衣までぐずりだし、私はすぐさま移動して彼女を抱く。

 そして悩んだ末、芽衣を抱っこした状態で呼び出しに応えた。正直、今はそれどころではないものの仕事をないがしろにはできない。

『早希、さっき言っていた資料だけれど不備があったから、再度新しいものを』

「すみません、社長。まだ確認できていないんです。ですが今日中には必ず」

 早口で珍しく発言を遮った私の肩に大きな手が乗せられる。

「岡崎!?」

 割り込んできたのは社長だった。驚いたのはこちらだけで、向こう側の尊さんは飄々としている。

『おー、千葉。久しぶり。遅いな、やっと真打ち登場か』

 その言い方に、社長がここに来たのは尊さん、もしくは茜が絡んでいるのだと悟った。茜は妊娠がわかった時点で、今すぐではなくても必ず父親に伝えるべきだと主張していた。

 私がなかなか行動に移さない一方で、日に日に愛らしくなる芽衣のために行動を起こしたのかもしれない。

「なぜお前が川上とやりとりしてるんだ」

『なぜって、早希には俺の秘書をしてもらっているんだ』

「なんだって?」

 珍しく社長が感情を顕わにしている。株式会社ストリボーグとは同じ業界で手を組むこともあればライバルとなるときもある。

 社長と尊さんは知り合いだとは聞いていたけれど、厳密にどんな関係なのかまでは把握していなかった。ふたりの勢いに口を挟めないでいると、尊さんはこれ見よがしに肩をすくめる。
< 19 / 147 >

この作品をシェア

pagetop