御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
『シングルマザーで子育てしながらよく働いてくれているよ。まったく父親はなにをやってんだか』

「お前……全部知っていたのか?」

 挑発めいた言い方に社長の顔が不快感で歪んだ。ふたりのやりとりの真意はわからないが、私としてはとにかく事を荒立ててほしくない。しかし尊さんはどこまでもマイペースだ。

『あ、芽衣。起きたんだ。今度お土産持って会いにいくから』

「来なくていい」

 なぜか社長が怒りの滲んだ声で静かに返す。対照的に芽衣が『あー、うー』と機嫌よく答え、それを見てさらに社長の眉間の皺が深くなった。

 場の収集がつかない。仕事の話だったのに、会話はすっかり社長と尊さん主体になっていた。

「社長」

 気を取り直して呼びかけると、社長と尊さんの視線が同時にこちらを向いた。

 ああ、もうまぎらわしい!

 私は画面の中の彼にしっかりと向き直る。

「必ず仕上げて今日中にはお送りします。すみません、今はこういう状況でして」

『慌てるものじゃないから、そっちの問題が片付いてからでかまわないよ。ついに俺に芽衣のパパの座を与えてくれるって結論を出してくれると嬉しいな』

 最後に爆弾を落として相手方から通信は切れた。いつもなら他愛ない冗談として受け流すけれど、今はそうもいかない。隣にいる社長は眉をひそめ、不機嫌そのものだ。

「……岡崎とは、どういう関係なんだ?」

 感情を抑え込んだ問いに私はぽつぽつと説明していく。
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