御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 当たり前だ。私たちは付き合っていたわけでも、結婚を考えていたわけでもない。社長もそこは反論せずに押し黙る。

 私は仕事用の笑顔を貼りつけて彼に微笑んだ。

「社長のお気持ち、とても嬉しいですし感謝します。結婚の申し出までしてくださるとは思いもしませんでした。でも、私たちが結婚しても上手くいきませんよ」

「なぜ言い切る?」

 即座に尋ねる社長に、私はやや声のトーンを落として答える。

「子どもを理由に責任をとる結婚なんて……少なくとも私の両親はそうでした」

 私の告白に社長は目を見張った。父を亡くしたとは話していたけれど、家庭の事情までは彼に詳しく話していなかった。

 若くして父との間に私を授かった母は、お互いの両親の後押しもあって結婚した。ところが妊娠が発覚した時点でふたりの関係は冷めかかっていたのもあり、結婚生活は早々に雲行きが怪しくなっていった。

 おかげで物心がついた頃からギスギスする両親に気を使うのが私の日常だった。自分が悪いのかと何度も悩み、父や母の顔色や雰囲気を探る日々。

 子どもながらに両親になんとか仲良くしてほしくてあれこれ考えたが、やがて両親が離婚を決めて父が出て行ったときは寂しさ半分、自分を責める気持ちもあった。

 なにが正解だったのか。私の存在はなんだったのか。

 けれど母の手前、落ち込んでもいられない。母子家庭となり働く母をサポートしていた経験もあって、働きすぎる社長についお節介を焼いた面もある。
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