御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 父と離婚して十数年後に母は良縁に恵まれ再婚し、今では再婚相手とその男性との間に生まれた子どもふたりと四人で暮らしている。

 私にとっては年の離れた義理の妹と弟になるけれど、どうしても母を含め別家庭のような存在で、仲が悪いわけでもないが出産のときも母にあまり頼れなかった。

 だから茜には感謝してもしきれない。尊さんにも。

「子どもは大人が思うよりずっと敏感なんです。愛し合っていない夫婦の元で育つなんてよくありません。芽衣に私と同じ思いをさせるくらいなら、結婚という形をとらず割り切った関係の方がよっぽどいいです」

 責任をとって結婚するより、ときどきでも父親として接する方がずっと芽衣のためだ。それに仕事人間の社長が子育てに関わるとも思えない。

 こうなったら彼が望む父親としての権利は最大限に行使してもらってかまわないから、なんとか納得してもらおう。

「俺は娘を手放す気はない」

 次の言葉を考えている間に社長は静かに言い切った。

 彼の発言に背筋に冷たいものが走る。私は甘く見ていたんだろうか。娘とはいえ千葉航空機の、ひいては千葉重工業を経営する千葉家の血を引く芽衣を、彼は手元に置いておきたいのかもしれない。

 言い返せずにいると社長の手がゆっくりとこちらに伸びてくる。拒否しようと思うも芽衣を抱っこしているのでへたに動けない。

 そのまま彼の手は私の(おとがい)に触れた。手の感触に驚いたのも束の間、上を向かされ射貫くような眼差しに捕えられる。
< 23 / 147 >

この作品をシェア

pagetop