御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「俺に愛される覚悟を決めるなら、もう二度と離さない」

 心臓も呼吸も止まりそうになる。当然と言わんばかりに唇が重ねられ、すぐさま顔を背けようとしたけれど、添えられた彼の手が許さない。

 甘い口づけにあの夜の記憶が断片的に頭に過ぎる。とっさに後ずさるとバランスを崩し、うしろに倒れ込みそうになった。

 芽衣を抱いているからうまく力が入らず芽衣を庇うことだけに意識が集中する。派手に床に打ち付けると思った瞬間、腰に腕を回され社長に力強く抱き留められていた。

「大丈夫か?」

「あ、はい」

 動揺が声に表れる。さすがの芽衣も驚きで目が覚め泣きだした。落ち着かせようと彼女の背中をさすっていると、社長が芽衣の脇の下に腕を差し入れ、自分の方に抱き寄せた。

 芽衣の泣き声は一段と大きくなり不安に駆られる。ところが急に視界が変わったのが逆によかったのか、社長の肩に頭を乗せた芽衣の涙が引っ込んだ。

「悪かった、驚かせたな」

 とんとんと芽衣の背中を優しく叩きながら呟く。その台詞は芽衣に対してなのか、私に対してなのか。

 社長から芽衣を預かり、彼を見送る。やはり仕事の都合をつけここを訪れたそうだ。

 なんでも今朝、突然自分の携帯に見知らぬ番号から電話がかかってきたらしい。(いぶか)しながら電話に出るとどうやら尊さんから社長の連絡先を聞いた茜が、私と芽衣のことを話したんだとか。

 にわかに信じられなかった社長だが、アドレスに送られてきた私と芽衣の写真を見て、ここにやってきたそうだ。たぶん茜がこの前遊びに来たときに撮った写真だ。
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