御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 結局、コーヒーも淹れられないままだった。とにかく仕事にとりかからないと。気持ちを切り替えようと試みてふと別の考えが過ぎる。

 机に置いてあったスマホをさわり、履歴からリダイヤルするとしばらくして相手が出た。

「もしもし、茜!?」

『早希が電話してくるってことは彼が動いたんだ』

 私が言葉を続ける前に相手が嬉しそうに呟いた。私の親友であり、社長に芽衣の存在を伝えた岡崎茜だ。

『行動早いね。さすが千葉航空機の社長。あ、逆か。遅いくらいだ』

「本当に茜が社長に連絡したんだ」

 予想はしていたし、尊さん経由で社長の連絡先が手に入る茜は、前に『私が電話しようか?』なんて言っていた。

『そう。早希に事前に言わなかったのは悪いと思っているよ。でもこのままだと早希は伝えるタイミングを延ばし続けると思ったの』

 図星だった。芽衣が無事に生まれたら、生活が落ち着いたら、そう自分に言い訳して気づけば芽衣の一歳の誕生日も見えてきている。

『で、どうだった? 責められた? 芽衣のことはなんて?』

 急に茜の声に神妙さが混じる。彼女なりに私たち母子をずっと心配してくれていた。

「……驚いていたけど、責められはしなかったよ。芽衣のことも可愛いって」

『そりゃ、あれだけ自分に似てたらねー』

 茜の茶々に苦笑する。本当に芽衣の整った顔立ち、とくに瞳は社長そっくりだ。

『で、これからどうするの? 少なくとも認知はしてもらえそう?』

「……結婚を提案された」

 さらりと抑揚なく告げるとしばしの沈黙が走る。
< 27 / 147 >

この作品をシェア

pagetop