御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 社長は、仕事帰りに彼女と食事をするなど何度か会っていた。

 それを私が知っているのは、社長が店の予約などを任せてきたからだ。取引先の相手との会食は何度もセッティングしてきたが、個人的なデートの段取りは今までになかった。

 これは仕事に含まれるのかと不満を抱きつつぴったりのお店をリストアップする自分が憎い。ついでにプレゼントの花までどうして私が用意しないとならないの。

『川上のセンスはいいからな』

 たしかに社長室に花を選んで活けるのは私の仕事だ。腹が立つ反面、褒められて任されるのが嬉しくもある。

 社長は言った通り、時間を作って日比野さんに歩み寄ろうとしている。そういう誠実さがあるから嫌いになれない。

 私はといえば仕事の延長で社長と食事をすることがあっても、楽しい会話ひとつできないし、高価なレストランはいつも場違いだと感じていた。

 仕事や社長に対して思うところをただ正直に述べるだけ。意外にも彼は真剣に聞いて返してくるので困る。

 根が真面目だからか社員の意見は尊重する人だからか。そうやって社長とふたりで食事する機会があったとしても自分が特別だとは思わなかった。

 きっと彼の周りに私みたいな女性はあまりいなかったのかもしれない。ただ珍しいものを見るような感覚なんだ。

 日比野さんとなら社長も楽しく盛り上がれるのかな。

『相手と家柄や育った環境が似ているのはいい』

 社長が日比野さんとの結婚を考えていると聞いて、改めてそう思った。
< 31 / 147 >

この作品をシェア

pagetop