御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 最近は、ハイハイも一段と早くなり、伝い歩きもお手の物になってきた。ますます目が離せない。

 けれど自分の子どもがこんなにも大切で愛おしく感じるなんて思いもしなかった。必死に抱っこをせがむ芽衣を抱き上げる。ひとまず授乳して落ち着かせよう。

 ブラウンのミニソファに腰掛け、芽衣を横抱きにする。就職したときに借りたこのアパートも芽衣が生まれてから部屋の雰囲気はずいぶん変わった。

 シンプルでモダンテイストにまとめていたが、今はベビーゲートで区切った一角は床にフロアマットを敷いて、絵本やおもちゃを収納するスペースを取っている。

 1LDKと広さに少し余裕があるのが救いだ。でも、もう少し芽衣が大きくなったらまた考えないといけないのかもしれない。

 ウトウトしはじめる芽衣をそっとベビー布団の上に置いた。そのときインターホンが鳴ったので、私の心臓は必要以上に跳ね上がる。

 芽衣を見ると、目を閉じそうになっているので安堵の息を漏らした。

 まったく。このタイミングで誰?

 ムッとしつつ玄関に向かい、相手にというより芽衣に気を使ってそっとドアを開けた。

 隙間からわずかに見えたのは高級そうな革靴で、訝しげに視線を上げる。そして目に飛び込んできた相手に私は目を()いた。

「久しぶりだな」

 感情がまったく声に乗っていない。表情にもだ。

 すらりと背が高く程よく引き締まった体つきのおかげで一歩間違えば野暮ったくなりそうなチャコールグレーのスーツを優雅に着こなし、左手には有名ブランドの腕時計をしている。
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