御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 思考を巡らせていると、不意に頬に唇を寄せられる。驚きで顔を背けようとするも反対側の頬に添えられている手は大きくて力強い。

「あの」

 状況が飲み込めず尋ねようとすると唇が重ねられた。コーヒーの香りが鼻を掠め、抵抗しようにもカップを持っているので手が使えない。

 触れるだけの優しい口づけだったが、あまりにも突然だったので文句のひとつでも言おうとした。

「早希があまりにも可愛いから」

 けれど明臣さんに先手を打たれてしまい、私は金魚みたいに口をぱくぱくとさせるだけだった。すると彼は頬に添えていた手を滑らせ、私の頤に指をかける。

「早希がどういうつもりでも、早希に触れるのは俺だけでいい」

 さっきよりも甘く、一方でどこか性急な口づけが始まり、触れられている箇所すべてが熱を帯びていく。

 さりげなく持っていたカップを取られ、急に宙に放たれた手は無意識に明臣さんのシャツを掴んでいた。

 あのときはアルコールの味が口内に広がって、気づけばあっさりと主導権を彼に奪われていた気がする。

 それは酔っている、いないは関係ないのかもしれない。

「っん」

 コーヒーの苦味はどちらのものなのかわからない。唇を軽く吸われ甘噛みされるなど触れ方に緩急をつけ、今も明臣さんに翻弄されていく。

 深くなる口づけに心臓が壊れそうに激しく打ちつけ、私はついに彼の肩を強めに押した。唇が離れたもののすぐに言葉が出てこず恥ずかしさもあってうつむく。
< 56 / 147 >

この作品をシェア

pagetop