御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 すると明臣さんは私の頭を撫でながら、頬にかかる髪をそっと耳にかけた。

 その際、ほんの少し彼の指が肌に触れただけで電流が走ったかのように熱くなる。

「愛し合いたいんじゃなかったのか?」

 耳元で余裕たっぷりに囁かれ、目眩を起こしそうだ。

「ぶ、物理的にって意味じゃないです」

 もっと、こう精神的に……って、具体的な方法はよくわからないけれど。ああ、もう。

 ぎゅっと指に力を入れ握りこぶしを作った。その様子を見たからなのか、明臣さんが不安げに尋ねてくる。

「嫌だったのか?」

 ぎこちなく首を横に振って意思表示をする。そもそも言い出したのは私だ。彼が私に触れるのも、私が言ったことを気にしてなんだ。

「お、お気持ちは有り難いのですが、その、明臣さんと違って私はこういうことに慣れていなくて」

 歯切れ悪く答えて滑稽だと思い直す。子どもまで授かった間柄でなにを言っているのだろう。わかっている。

 でも実際問題、私の恋愛経験なんてたかがしれていて、もっと言えば体を重ねることだって……。

「少し強引すぎたな。正直焦っている」

 顔を上げると、明臣さんは困惑めいた笑みを浮かべていた。

 焦るってなにを? 私との結婚?

 問いかける前に明臣さんは私の頭をそっと撫でる。

「今度、芽衣も一緒に出かけよう。早希がゆっくりできる時間を作るから」

「あ、いえ」

 お気遣いなく、と続けようとすると先を読んだ明臣さんがやや怒った口調になる。
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