御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「俺がもっとふたりと一緒に過ごす時間がほしいんだ」

 強い意志はまるで子どもみたいな言い草だ。おかげで私は笑みがこぼれる。

「はい、ありがとうございます。私も芽衣も楽しみにしています」

 私ひとりだと出かけられる場所も限られているから芽衣もきっと喜ぶと思う。

 そろそろ帰ると告げる明臣さんを玄関まで見送る。芽衣も一度目を覚ます時間だ。

「早希のことは信用している。でも、あまり妬かせないでほしい」

 帰り際、靴を履いた明臣さんが念を押すように切り出してきた。

「それに、俺はまだ諦めていない」

 どうやら私が尊さんの秘書をしている件についての話らしい。

「駄々っ子みたいなこと言わないでください」

「わかっている。でも気に入らないものは気に入らない」

 軽くやり取りし私はつい噴き出した。明臣さんってこんなに強情で感情で物を言う人だった? 秘書をしていたときには知らなかった一面を感じてなんだかおかしくなる。

 そんな私を見て明臣さんはそばまで寄って来ると、頬に手を伸ばしゆるやかに口づけた。今度は私も目を閉じて素直に受け入れる。

「おやすみ、早希。戸締りちゃんとしろよ」

「はい。明臣さんもお気をつけて」

 ドアの向こうに消えるまで彼の背中を見つめ、大きく息を吐いた。心なしか心拍数が上昇し顔が熱い。まだ色々と現実味が湧かない。

 そのときリビングから小さな叫び声が聞こえる。芽衣が起きたらしい。私は気持ちを切り替え慌てて芽衣の元へと駆け寄った。
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