御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 そしてやってきたホテルを前に私は今、口をぽかんと開けている。

 まずこの玄関口に辿りつくまでの敷地が広大で、足を踏み込むとそこはもう完全な別世界だった。

 南国をモチーフにした鮮やかな緑と青々とした噴水が贅沢に配置されており、建物はクラシックなコロニアル様式で真っ白だ。

 何度かテレビや雑誌で紹介されているのを見た記憶があるほど話題性のあるホテルだが、自分が行くことになるとは夢にも思ってもみなかった。

 家まで迎えに来た明臣さんの車にはちゃんとチャイルドシートが設置されていて、芽衣は機嫌よく乗っていた。

 当然、彼は私服で白のニットとスラックスにチェスターコートを羽織り、シンプルだが上品にまとめている。いつもスーツ姿しか見ていないので、勝手にどぎまぎした。

 対する私はボルドーカラーのコーデュロイ素材のビスチェワンピースとヒールが低めのショートブーツを組み合わせ、お出かけ仕様ではあるが、お洒落さより機能性重視だ。

 芽衣を抱っこしたまま呆然としていると明臣さんは私たちの荷物を抱え、先を歩く。すぐにホテルのスタッフが駆け寄ってきて荷物を持ち、中に案内された。

 ロビーも十分なスペースがとられ、明臣さんが手続きをしている間、芽衣と建物内に視線を巡らせる。建物は中庭をぐるりと囲む造りで、上の階まで吹き抜けになっていた。

 通された部屋は私のアパートよりも広く、ベッドルームとリビングスペースが別にあり、ホテルというより別荘だ。
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