御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 ナチュラルカラーをベースに落ち着ける空間になっている。そのとき部屋の一部に靴を脱ぐスペースが設けられていて、おもちゃやぬいぐるみ、絵本などがありキッズスペースだと気づいた。

 そっと芽衣をキッズスペースに下ろすと、ハイハイしてそのまま大きなくまのぬいぐるみを目指す。その様子を見て張りつめていた心がわずかに緩みホッとする。

「気に入ったか?」

 スタッフからの説明を受けた明臣さんが、荷物を置いて私の隣までやってくる。私は素直に頷いた。

「はい。すごく素敵ですね」

「ならよかった。ずっと顔が強張っていたから」

 明臣さんの指摘に私は目を見開く。そこまであからさまに顔に出ていたとは思ってもみなかった。

「無理をさせたのかと」

「ち、違います!」

 反射的に力強く否定する。

「芽衣とこうやって泊まりがけで出かけるのが初めてだったので……少し緊張していたんです」

 正確には理由はそれだけではないけれど。

 ホテルなら土足だろうし、ハイハイをする芽衣はどうしようとか。離乳食やおやつ、オムツや着替えの予備などあらゆる可能性を考えたら落ち着かなかった。

 ところが、ここはベビーベッドやオムツなどあらゆるものが完備していて、赤ちゃん連れに十分に配慮してあった。外泊だとあれこれ心配していたのは杞憂だったらしい。

「もう少し、事前に詳しく説明しておけばよかったな」 

 頭に手を置かれ、申し訳なさそうな顔をする彼に、静かにかぶりを振った。むしろ、明臣さんがここまで芽衣のことを考えてくれていたのが嬉しいくらいだ。それに……。
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