御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「いいえ。私ひとりだときっとできなかった経験ですから」

 金銭的にも精神的にも、芽衣とこんなふうに過ごす余裕はなかった。広いスペースで初めて見るおもちゃに興奮気味な芽衣に目を細める。

 改めて感謝の言葉を述べようとする前に明臣さんが口を開く。 

「もう早希はひとりじゃないから、すべてを抱え込まなくていいんだ。もっと俺を頼ってほしい」

 真剣な眼差しで訴えかけられ息を呑む。やっぱり彼は仕事でもプライベートでも根は真面目だ。

「ありがとうございます」

 明臣さんの気遣いは本当に嬉しい。ところが打って変わって彼は訝しげな表情になった。

「……頼る気なさそうだな」

「そんなことありませんよ!」

 間髪を入れずに返すと続けて明臣さんは予想外の切り返しをしてくる。

「なら、俺が芽衣を見ているから早希は髪を切りにいったらいい」

「え……?」

 突然の提案に目を丸くした。なんでもこのリゾートホテルには長期滞在する裕福層も多いらしく、宿泊エリアと行き来可能な別棟には、お店やレストラン、病院やヘアサロン、ジムなどあらゆる施設がそろっているらしい。

 しかもどれも名だたる一流企業やメーカーのものばかり。

 私が髪を切りたいと話していたのを叶えるため、ヘアサロンをすでに予約済みなんだとか。

「せっかくだからゆっくりしてきたらいい」

 一通りの事情を聞いて納得したとはいえ、素直に『はい』とは頷けない。
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