御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「で、でも明臣さん、芽衣の世話、できます? もし泣きやまなかったり、ぐずりだしたら」

「なんとかするさ」

 色々想定して不安を口にする私に彼はあっけらかんと答える。ほんの数分ではすまされない話だ。

「けれど」

「早希」

 まだ反論しようとする私の名前を明臣さんは静かに呼んだ。

「少しは俺を信用してくれないか?」

 その言い方はずるい。私の答えは決まっているから。

「信用……していますよ」

 狙い通りの回答だったからか、明臣さんは満足そうに微笑む。

「なら決まりだ。芽衣は、アレルギーは今のところなかったな?」

「はい。あ、おやつ持ってきています。あとオムツも……」

 念のため着がえなどについても伝えておく。多少、家に来たときに明臣さんに芽衣の面倒や世話をお願いしたことがあってもこんなに長くはない。

 ましてや私がいない状況なんて……。

「少しは芽衣とふたりだけで過ごして、距離を縮めたいんだ。他人ではなく父親だって芽衣に認識してもらうためにも」

 私の心を読んだかのようなタイミングで彼が念を押す。単に私に気を使っただけじゃない。これ以上渋るのは、明臣さんに失礼かもしれない。

「では、お言葉に甘えていってきます」

 心なしか小声になったのは、芽衣に私がいなくなるのを悟られないためだ。珍しさもあってか、芽衣はおもちゃやぬいぐるみに夢中になっている。

 そっと部屋のドアを出て、持ちだしてきた建物内の地図を見る。迷子にならないようにしないと。
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