御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 支払いは全部宿泊料にまとめてあるなんて。せめていくらかは払わせてもらおうと決意し、部屋のドアを静かに開けた。

 大変な状況になっていたらどうしよう。けれど芽衣の泣き声は聞こえない。もしかして出かけているのかな? とにかく中に足を踏み入れる。

「早希?」

 気づいたのは相手が先だった。心配した光景はなく、明臣さんはリビングスペースのソファでゆったりと本を読んでいた。

「お疲れさまです。あの、芽衣は?」

「隣の部屋で眠っている。まだ十五分くらいだ」

 腕時計を確認して明臣さんは答える。ということは、芽衣はほぼ起きていたらしい。

「髪、よく似合っている」

 明臣さんの指摘に、我に返った私は慌てて頭を下げた。

「あの、色々と手配してくださってありがとうございます」

「少しは気分転換になったか?」

 優しく尋ねられ、私は頷く。

「はい、とても。……明臣さんは大丈夫でしたか?」

「ああ」

 どうやら彼は、育児もそつなくこなせてしまうらしい。寝かしつけまでできるなんて。ホッとしたような、少しだけ寂しいような……。

「と言いたいところだが、正直参った」

「え?」

 本を閉じてソファの背もたれに体を預けて、彼は苦笑いを浮かべてこちらを見た。

 なんでも私が部屋を出て数分もしないうちに、私がいないことに気づいた芽衣は大泣きして抱っこも拒否の状態になったんだとか。
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