御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 私は元々お酒に弱いし、授乳中なのもあって飲まない。私に気にせず飲んでくださいと伝えたが、明臣さんは注文しなかった。

 もしかして、お互いにお酒を飲んであんなことになったから気にしているのかな?

 あれは明臣さんというより私の問題だったんだけれど。

 面と向かって尋ねる勇気もなく深くは考えないことにする。後は部屋で芽衣をお風呂に入れて、のんびり過ごそう。

 レストランから出た後は、私が芽衣を抱っこする。そして改めて明臣さんにお礼を告げようとしたときだった。

「明臣さん」

 背後から声をかけられ、私も彼も振り向く。意外な人物が目に映り私は硬直した。

「こんばんは。こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」

 日比野玲奈さん。ヒビノ工業の社長の孫娘で直接会うのは初めてだが、その容姿や立場から経済誌やメディアに取り上げられているので顔はよく知っている。

 明臣さんが結婚を前提に会っていた人だ。

 背中まである長い髪は艶があって大きな瞳に小さな顔は私より年上なのに庇護欲を掻き立てられる可愛らしさがある。

 豊満な胸元にフリルがあしらわれた白いワンピースは彼女によく似合っていて、なんともいえない色気がある。

 もうひとり、彼女のそばには初老の男性が立っていた。

「叔父さま、こちら千葉航空機株式会社社長の千葉明臣さん」

 日比野さんの紹介を聞いて、男性は手をぽんっと鳴らした。
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