御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 たゆんだワンピースは肩をはだけさせ、なかなかあられもない姿だ。でもここには私と芽衣しかいないし、優先するのは芽衣が風邪をひかないようにすることだ。

「よし、芽衣。お風呂に行こう」

 キッズスペースで遊んでいた芽衣を抱っこし、バスルームへ足を向けようとした。そのときだった。

「早希」

 まったくの不意打ちだった。幻聴を疑うほどに。芽衣を抱っこしたまま声のした方に体を向けるとドアのところには明臣さんの姿があった。

「な、なんで?」

 思わず疑問が口を衝いて出て、今の自分の格好を思い出す。私はすぐさまその場にしゃがみ込んだ。

「こ、これは芽衣をお風呂に入れるために、私はすぐに脱げるようにと、それで……」

 自分でも言っている内容がよくわからない。そもそもなにに対する言い訳なのか。ただ、羞恥心だけではなく居た堪れない劣等感にも包まれている。

『そのお洋服も髪型もすごくお似合いですよ』

 さっきまでの着飾っていた私はどこにもいない。彼女に似合うと褒められた髪も服も、もとはといえば明臣さんの力だ。

 恥ずかしくて、みっともない。まるで魔法が解けたシンデレラのような気分だ。

 その点、日比野さんは魔法など必要のない本物だ。頭のてっぺんから足のつま先まで、彼女の美しさや立ち振る舞いは完璧だった。

 明臣さんと並ぶと見た目も立場的にも対等で、なんならビジネスの話をしながらお酒だって一緒に飲める。彼女との結婚を進めていた理由がよくわかった。
< 83 / 147 >

この作品をシェア

pagetop