淡く脆いあの日の約束
「おー!また夫婦で登校か?」
「仲良いねぇー?」
「そんなんじゃないって言ってんだろ!」
いつものお決まりの冷やかし。
小学生までは幼馴染で仲良い2人ってだけだったのに、中学に入ってからは異性と並んで歩いているだけでもこうして誰かがふざけてくる。
バカな男子を相手にするからまた調子に乗って冷やかされるんだ。
私は無視して自分の席につく。
「美月も大変だね」
声をかけてくれたのは親友の山内 亜里沙。
亜里沙とは中学からの付き合いでこんなやりとりを今まで何百回と見てきている。
「いちいち相手にしてるからダメなんだよ〜。ああいうのは無視が一番なんだからっ」
通学鞄から教科書を出し机の中にしまっている最中、英語の宿題をやっていない事を思い出した。
「あ〜!そうだ!英語の宿題!」
「なに?忘れたの?」
「忘れた〜っ!忘れたって事も忘れてた!」
「何してんのよ…」
呆れる亜里沙に「だって…」と口を尖らせた後、チラリと時間割を見る。
英語は2限だからホームルームが始まるまでの時間と1限の授業が終わってすぐに取り掛かればなんとかっ…!
そんな事を思いながらノートを広げた時、スッと自分のでは無いノートが机の上に置かれた。
「…え?」
「宿題。忘れたんだろ?帰りに何か奢れよ」
楓太が自分のノートを渡してくれた。
朝は見せないって言ってたのに…。
「…ありがと」
「さっさとしろよ、ノロ美月」
「なんだと〜!?」
楓太が悪戯っ子のように笑う。
背丈や顔立ちが変わっても、この笑顔や優しさは変わってない。
いつまでもこんな風に穏やかに続けばいい。
いつの日かそう願うことが多くなっていく。