みやとロウ。
はてなマークをつけたのは
今、目の前にいる相手が
いつもの見慣れた『獣』の姿じゃなくて

自分と同じ『人』の姿をしていたから



肯定されなかったけど
その無愛想なしゃべり方や態度が
耳馴染みの深い声や
見覚えのある特徴的なその瞳が
そうだと代わりに物語っていた



「……誰かに押された」

「それは見たら分かる
何故、こんな所にいると聞いている」

「……塞ノ神さまとロウがいないから…」


呆然としながらも、ぽつりとそう答えれば
怒ったような口調が
ほんの少し柔らかくなる


「…。森の『奥』には行くなと言っただろう」

「……ごめんなさい」


それは何度もロウに言われていたこと

故意ではないとは言え
破ってしまったことには変わりないので、素直に謝る



「…みや?」

「塞ノ神さま」


ロウの背後
暗闇の奥から現れた塞ノ神さま

私がいることに驚いた様子だったけど

ロウの腕の中で
呆然とする私を見るなり
すぐ状況を把握して、困ったように眉を下げた


「ごめんね
怖い目に遭わせてしまったみたいだ」


ふるふると首を横に振る


「…みやが、言い付け破ったから…」

「僕達がいないから不安になって探してたんだろう?」


塞ノ神さまは
もう一度『ごめんね』と繰り返して
あたりを見渡す


「最近、森の『外』が騒がしくてね
だから毎晩、『奥』の方の様子を窺っていたんだ」


「…なんで、ロウは人の姿?」


「一応、森の『外』だからね
万が一、人に出くわしても大丈夫なように
ロウにはその姿で同行してもらってるんだ」
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