みやとロウ。
暗闇の中、不気味に光るふたつの赤


血が固まって変色した時のような
どす黒い赤


それが、段々とこっちに近付いてくる


本能的な恐怖を感じた


目を逸らしたいのに、逸らせない

逃げたいのに、足がすくんで動けない



目の前までやってきた『それ』は
恐怖で震える私を、じっと見下ろして


ゆっくりと、まるで何かを咀嚼(そしゃく)するように口を動かした


連動するように、自分の頭の中から
大切なものがひとつ、またひとつと
失くなっていくのが分かった


最初は色、次は匂い

次は感触、次は声、次は顔


記憶にたくさん穴が出来ていく


一番大切な相手の記憶

一緒に過ごした時間の記憶

なによりも大事な私の記憶



やめて


取らないで


奪わないで


返して


何度も何度も訴えた、叫んだ、懇願した



でも



私が大切に大切にしていたものは全部



『それ』に食べられてしまった
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