みやとロウ。
「………忘れないで…」


無意識に口から出たその言葉と
頬を伝う涙の感触で目を覚ます



……夢



………夢じゃない



前にも視た




あれは、いとの記憶だ




……。



「……忘れたりしないよ」



目元を腕で覆いながら、小さく呟く



記憶を失う前のいとの事も

記憶を失った後のいとの事も


ロウは忘れたりなんてしない


悲しくても、苦しくても
あった出来事を無かったことになんてしない


無くしてしまった方が
忘れてしまった方が楽だったとしても


それでも



「………ちゃんと、覚えてる」



そう言い切れる




「また夢を視たんだね」



いまだに止まらない涙を
ごしごしと少し乱暴に拭えば
優しい声が降り注ぐ


「……塞ノ神さま」


一体いつからそこにいたのか
すぐ傍に、塞ノ神さまがいた


「…いとが、泣いてた」


伝えれば、浮かべた笑顔が少し陰る


「曲霊に触れれば
なにかしら影響は受けるものだけど」


「やっぱり
みやは白いから染まりやすいね」


撫でるように私の頬に触れる塞ノ神さま


「同じように
ロウに対しての想いが強いから余計に、なのかな」



「いとの未練と執着に
きみの体と魂が強く反応してる」



塞ノ神さまの瞳の色がいつもよりも深くなる

私には見えない何かを見てる時の目



「あの時、直霊のふゆが一緒にいたからか
悪い方には作用してないけど…」
< 89 / 162 >

この作品をシェア

pagetop