メリーバッドエンド
「マニキュアなんてするの初めてです」

私がそう呟くと、圭さんは「知ってるよ」と微笑む。そして、少量の薄いピンクのマニキュアがついたブラシを爪の先端に当て、塗り始めた。

「よく似合うね、この色。でも紫とか青系も似合うと思うよ。今度買ってきてあげる」

「えっ、そんなの申し訳ないです。この一色で十分ですよ」

圭さんが買ってきてくれるメイク用品は、女優さんやお金持ちしか持っていないだろうと思うような高いブランドのものばかりだ。このマニキュアだって安物というわけではないし、誘拐犯とはいえ申し訳なってしまう。

「いいの。俺がしたくてすることなんだから。若菜は何も考えずに愛されていればいいんだよ」

そう圭さんは言った後、綺麗にマニキュアが塗られた私の手に優しく口付ける。まるで童話に登場する王子様のようだ。観客が誰もいない中、二人きりの世界で物語が進んでいく。

心が奪われそうになり、慌てて私は現実を思い出させる。ネイルをするための道具が並んでいるテーブルには、私を拘束するための手錠が置かれていて、私の首には首輪、足には足枷がつけられている。心を奪われちゃダメだ。
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