メリーバッドエンド
「アメリカは素敵な観光地がいっぱいあるところだよ。俺たちの新婚旅行で行こうか。若菜と行きたいところ、たくさんあるんだ」

新婚旅行、そのワードを出した瞬間に若菜の顔は少し曇る。その顔に胸がナイフで抉られたみたいに痛むんだ。

若菜は俺に抵抗したり、「家に帰りたい。外に出たい」なんて言ったりしない。キスやハグを受け入れてくれるし、俺の話を聞いてくれる。俺が俳優という職業じゃなかったら、若菜のことを心の奥底から疑うことはなかっただろう。

俺は気付いてる。若菜が俺に抵抗しないのは、信頼させて逃げるためだって。若菜は馬鹿だなぁ。俺は俳優で演技かどうかなんてちゃんとわかる。若菜が俺のことを怯えているのは知ってるよ。

でも、若菜が逃げたがっているとわかっても、俺は若菜を放すなんてことはしない。若菜と一緒にいることが俺の幸せなんだから……。

「若菜、愛してるよ」

俺が微笑むと、若菜も微笑み返してくれる。どんな女優よりも綺麗な演技だよ、若菜。
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