もしも世界が終わるなら
目を背けていた過去
あの頃と同じ砂利道を進み、旅館まで歩く。会話はなかったけれど、不思議と居心地は良かった。
子どもの頃は曲がると旅館が見える角の前で、いつもさよならだった。
旅館の裏にある母家で暮らしていた私とは、旅館の前まで一緒に帰らないというのが暗黙のルール。角を曲がる手前でふたり立ち止まる。
「明日も、会えるかな。懐かしい場所にちいちゃんと行きたい」
控えめに目を伏せる彼に、はにかんで答える。
「私も、しいちゃんと思い出の場所を巡りたいな」
「それなら決まりだ」
柔らかな笑みはまぶしくて、あの頃と変わっていない。きっと私たちなら、しいちゃんとなら、大事なものを置き忘れたあの頃から大切ななにかを取り戻せる気がした。
「いつもの土手に、明日の朝九時に」
「うん。わかった」
子どもの頃に戻ったみたいな約束を交わし、あの頃みたいにしいちゃんと別れ、角を曲がる。旅館に向かうのは、どこか気が重いものの懐かしさも感じた。