もしも世界が終わるなら
 部屋に入ると、中は外観と同じ純和風な造り。畳に上り、崩れるように部屋の奥に座り込む。

 先ほどのふたりが脳裏に浮かび、嫌悪感が広がっていく。ずっと子どもの頃から、見て見ぬ振りをしてきた違和感。

 まだその違和感に気づかなかった頃は、幸せだった。

 小学生低学年くらいの頃、しいちゃんに思わぬ台詞を言われても、素っ頓狂な顔をしていられるくらい平和ボケしていた頃は。

『俺とちいちゃんは兄妹だ』

『え?』

 驚いて目を丸くすると、しいちゃんは頭をかいて言葉を捕捉した。

『そのくらい仲良しだねって言いたくて』

『あ、うん。そうだね』

 断定的な言い方に驚きはしたものの、当時は本当にそうならいいなと思っていた。

 それなのに、しいちゃんはとても寂しそうな顔をしていた。まだ幼かった私は、自分が驚いたせいだと深く考えていなかった。

 すぐにでも『うん。本物の兄妹にも負けないね』って言えるくらい、いつも一緒にいたから。

 年齢が上がるにつれ、しいちゃんの言った言葉の意味のもつ真実に気づきつつあった。だから余計に旅館に近寄らなくなった。
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