もしも世界が終わるなら
 母と父が離婚したのは中学二年の時。

 突然、この田舎から出て別の場所に暮らすと知ったのは、引っ越す前日だった。

 母と父の間になにがあったのかは知らない。けれど円満な別れではなかったのは、当時のバタバタ具合でもわかる。父とは挨拶もできないほどの急な別れだった。

 不意に「お客様よろしいでしょうか」と部屋の外から声をかけられ「はい」と答えると、仲居さんが部屋へと顔を出した。

 環さんではないのは、父が気を回したのかもしれない。

「お食事はいつに致しましょう」

「六時頃にお願いします」

「かしこまりました。六時頃、お持ち致します」

 仲居さんは丁寧に頭を下げ、順に温泉の説明もしていく。

「大浴場はお好きな時間にご入浴いただけます。美人の湯として人気の高いにごり湯を、是非ともご堪能くださいませ」

 穏やかな口調の仲居さんに癒され、心も解けていく。
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