もしも世界が終わるなら

 仲居さんが退室してひと息つくと、美月ちゃんから連絡が入っていたことを思い出す。

 バッグからスマホを取り出し、トークアプリを開いて確認する。

『聞きましたよ。どうして夏目さんの誘いを断ったんですか?』

 思わぬお節介に頬が緩む。

『予定があったから』

 正直に理由を送ってから、スマホをテーブルに置く。

 美月ちゃんのお陰で夢現なこの地から、現実世界に戻れた気がして小さく笑う。現実逃避でここに来た部分もあるくせに、美月ちゃんの平和なトークアプリの内容に救われていた。

 部屋は、小さいながら露天風呂がついているタイプ。

 白崎旅館に泊まる決心をしつつも、大浴場に行くまでの勇気はない。旅館を歩き回れば、さきほどみたいに環さんや父と顔を合わせる機会が増える。だから夕食も部屋食をお願いしてある。
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