もしも世界が終わるなら
満員電車で見るともなしに視界に入るキャッチコピーは、ある忘れられない約束を呼び覚ました。
『大人になったら会おう。必ず』
私の心の中でキラキラとまばゆい光を放つ光景が、今もありありと思い出される。草花を撫でる風の匂い、柔らかな優しい日差し。言葉を交わさなくとも、流れる穏やかな空気。今では忘れてしまった緩やかな時間は、全てあの日に置いて来たのかもしれない。
『大人』がいつなのか。そんな重要な取り決めもせずに別れた自分たちを、子どもだったなあと嘲笑する。それでも、その約束だけで頑張れた。
あの子に会えたときに、胸を張れる大人でいたい。いつ会えても、恥じない大人でいたい。
そう鼓舞して生きるうちに、会わないまま二十八歳になっていた。それなら一度会いに行ってみようか。会える確証などどこにもないけれど、旅行を計画し懐かしい故郷へと向かう電車にこうして揺られているのである。