もしも世界が終わるなら

「あの日、俺はちいちゃんを悪い男から守ってやるってイキがっていた」

 両手を組んで額に当てるしいちゃんの表情は見えない。声は悲痛に歪んでいて、胸が痛くなる。

「でも、それは、勘違いで」

「え……勘違い?」

 想像とは違う結末を期待して、声のトーンが高くなる。

「うん。違った」

 上擦る声の私とは対照的に、しいちゃんは低い声で告げる。

「狙いは俺だった」

「え」

 声を失うと、自虐的にしいちゃんは続ける。

「わかるわけないよね。中性的な男の子が好きらしくて、それであいつは俺をっ!」

 肩を震わせるしいちゃんの腕を掴んで訴える。

「ごめん。もういいよ。もう」

 だから会えなかったんだ。だから誰も本当のことを話してくれなかったんだ。

 消したのは、抹殺したのは、先生ではなく、しいちゃんの中にあるあの日の記憶。

 それを私は、自分の勝手な思い込みで呼び起こさせてしまった。
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