もしも世界が終わるなら

「お隣、よろしいですか?」

 かけられた声に反応して、窓から視線をそちらに向ける。若い男性が頭をかきつつ、恥じらい混じりに立っている。

「ええ。どうぞ」

 笑顔でそう言うと、ぱあっと晴れやかな表情を浮かべ隣に座る。

「私は、向こうに行きますので、お気になさらずに」

 満面の笑みを向け、颯爽と席を立つ。声をかけて来た男性は落胆しているのかもしれないが、見知らぬ人と道中を共に出来るほど人懐っこい性格はしていない。

 それに、席はそれほど混んでいないのだから、わざわざ断ってまで隣に座る男性の真意が透けて見える。だからこそ余計に『ご一緒』したくない。

 たとえ旅の道中で意気投合しても、今の男性だって今まで出会ってきた人となんら変わりはないだろう。私の出生を語れば、顔色を変えるに決まっている。

 キャスター付きの荷物を転がし、隣の車両へと移り、ひと気の少ない席へと腰を下ろす。
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