もしも世界が終わるなら
「ごめん。つらい話をさせて、ごめん」
懇願するように謝っても、しいちゃんは話すのをやめない。
「俺、男の人で男が好きな人がいるのは、当時も知っていて。でも、自分がそういう対象になるだなんて、夢にも思わなくて。男からそういう目で見られた俺は、汚くて穢らわしい」
「そんなことない!」
初めて聞く弱音に胸が抉られる。
力強く掴んだ腕。私に揺さぶられ、しいちゃんは顔を上げる。
儚げな憂いを帯びた瞳と目が合い、顔が近づく。胸が痛い。
「でも、私たちは……」
消えかけた声が出て、顔を俯かせる。触れてしまいそうな唇は震えていた。
兄妹かもしれない。そうじゃないかもしれない。でもそんなこと言えない。
「ごめん。友達、だもんな」
そうじゃない。本当は自分だって、ずっとしいちゃんを忘れられなかった。これが恋心なのか、血の繋がりから来る親愛なのか、ずっとわからずにいた。
「ごめん。しいちゃんは私のせいで……」
どんな形で償えばいいのかわからない。なにを言っても嘘に聞こえそうで、言葉を続けられない。
「大丈夫だよ。実際には未遂で、恐怖で上げた悲鳴に駆けつけたほかの先生たちに、あの担任は取り押さえられたから」
しいちゃんの言葉に息をつく。それでもトラウマには変わりないだろう。私になにができるの? 私がしいちゃんに……。