もしも世界が終わるなら
「あんたが穂高の!」
突然の怒号に驚き、咄嗟に掴んでいた手を離すと、声の主はカッと血走った目を向けていた。
「今さら会いに来て、なによ!」
すごい剣幕で近づいてくる女性は、私たちと同年代に見える。
「やめろよ。実香」
低い声に女性は立ち止まり、肩を震わせる。目を見開き立ち尽くす姿は、失望が色濃く広がり唇までわなないている。
「行こう。ちいちゃん」
しいちゃんは無慈悲に彼女に背を向け、私の手を引いて歩き出す。
あまりに冷たい行動は、私にされた行為ではないのに、胸を軋ませる。しいちゃんが優しく穏やかな人だと思い続けてきたのは、私が見ていた一部分の彼だけなのかもしれない。
背後からは呪いを浴びせるように金切声が響く。
「所詮戸籍上、あんたたちは兄妹だ。結婚できないんだからね! いい気味」
八年前、目にした戸籍謄本。父の欄に記された名が頭を過ぎる。