もしも世界が終わるなら

 そんな彼に、私も心にしまっていた母との思い出を口にする。

「私の母はある人に『あんたは椿の花みたいだよ』って言われたみたいで」

 椿には椿を好む毛虫がいて、その毒のある毛に触れると酷い目に遭う。そして椿の花は花びら一枚ずつ散らずに、まるで首が落ちるようにまるごと落ちるため、縁起が悪いと言われている。

 誰がそんなこと。とは、聞いてこない。知っているのかもしれない。環さんが母を椿のようだと揶揄していたのを。

 黙り込むしいちゃんに、私は重ねて問いかける。

「椿の怖い花言葉を知ってる?」

 しいちゃんは、なにも言わずに首を横に振る。

 椿の花言葉は『控えめ』や『謙虚』というものがあるが、裏花言葉というのか、怖い花言葉もある。そんなものに母が囚われていたのかどうかはわからない。ただ、椿を前にすると、いつも悲しそうな目で見つめていた。

「椿の怖い花言葉は『罪を犯す女』。私ももしかしたら、そうなるかもしれない」

 真っ直ぐに見つめて告げると、彼の瞳の奥は僅かに揺らいでいる。
 その瞳を閉じ、再び開いた目は地面に向け、話し出す。
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