もしも世界が終わるなら

「未遂に終わった後追いで、妊娠が発覚して。千生、あなたよ」

 父の欄の進次郎の名。私は、進次郎さんの忘れ形見だったのだ。

「千生の名前はね。千に長く生きる。進次郎さんが遺してくれた命を私は守ってみせるって、強く生きる決意をしたわ」

『千生』にそんな想いが込められていたなんて。母の進次郎さんへの深い愛を感じ、やっと普通に息が吸えるような思いがした。

「進次郎さんを失い、大変なときに支えてくれたのは、宗一郎さんだった。赤ちゃんを抱え、ひとりで生きていく勇気がなかった。強く生きるって決めたのに、結果的に宗一郎さんに寄りかかってしまった私がいけなかったの」

 私はなにも知らずスクスクと育った。父だと思っていた宗一郎さんに懐き、随分可愛がってもらった記憶も鮮明に蘇る。

「宗一郎さんは、私に自分と再婚しないかと提案した。私が進次郎さんを忘れられないと伝えても、それでいいと言ってくれて。千生も進次郎さんの子どものままでいいって」

 だから私の戸籍には、宗一郎の名前はどこにもなかったのだ。
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