もしも世界が終わるなら

「宗一郎さんはそこで初めて、その子が自分の子だと知ったみたいで。私はやっと自分ひとりでやっていく決心を固めたの」

 それから、私たちはあの田舎から引っ越した。宗一郎さんと母は離婚し、宗一郎さんは責任を取る形で環さんと再婚したようだ。

 だからあの思い出のれんげ畑に、しいちゃんのお兄さんが家を建てたのだ。私たちの思い出の地を自分の家で潰したのは、お兄さんなりの見せしめだったのかもしれない。

 しいちゃんのお兄さんなら、環さんのつらい姿を近くで見てきただろう。それなのに、のんきに仲良くしている私たちに苛立ちを覚えても、責められない。

『親父の土地』と言った親父とは宗一郎さんで、あの辺り一帯の地主である、白崎旅館の藤木一族のものだったのだろう。

 しいちゃんが宗一郎さんの息子だとして、お兄さんは環さんの前夫との連れ子だろうか。その辺りは、もうどうでもよかった。それは、環さんと宗一郎さんとの問題だ。
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