もしも世界が終わるなら

「当時、宗一郎さんを信用しきれていなかった自分を、今日とても反省したわ。千生はどこで生きていようと俺の娘に変わりはないから、是非とも結婚式には母と離婚した父として出席させてほしいって」

 ああ、私の知っているお父さんだ。私の父は今も昔も宗一郎さんしかいないのだから。

「まだ、相手もいないのに、気が早いよ」

「ふふ。父として、なにか感じるものがあったんじゃないかな」

 泣き笑いの声はじんわりと胸に広がって、今さらながらに鼻の奥がツンとする。それを悟られたくなくて、冗談を口にする。

「お母さんだって、新しい恋人のひとりやふたり、紹介してくれたっていいんだからね」

「千生より先に、お母さんに恋人ができたらどうするのよ。いじけたりしないでよ?」

 いつもの親子の会話に戻って安堵する。シリアスな会話は私たちには似合わない。

「何泊のつもりで旅行に行ったの? 無断外泊が故郷への帰省だなんて、年頃の娘が聞いて呆れるわ」

 故郷への帰省。そう言ってくれる母の優しさを感じる。母にとっては、つらく悲しい地のはずだ。私は今もなお、母に守られているのだと知り、胸がじんと熱くなる。

 だいたい、心配させたくなくて、友達と旅行と伝えてあるのに、わざと茶化して言う母が愛おしい。
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