もしも世界が終わるなら
送るとそれほど時間を空けずにスマホが派手に振動して、ドキリとする。画面が変わり、中央に夏目智紀の名前と着信が表示されている。
息を深く吐き、通話ボタンを押す。
「倉持さん?」
「はい。倉持です。お疲れ様です」
「ああ。お疲れ。帰ってきたんだね。おかえり」
言葉のあやでしかないのに『おかえり』のひと言がゆっくりと温かく胸に広がる。
心穏やかになれる田舎。ずっと戻りたかった子ども時代。それでも、もうこちらが私の『帰る場所』なのだ。
「ただいま、戻りました」
ぎこちない返答に、フッと息を吐いたような笑いがこぼれたのが耳に届く。
「真面目だなあ」
「夏目さんこそ、メールがかしこまった敬語だったので笑ってしまいました」
「それは、メール初めてだったから」
歯切れの悪い受け答えに、なんだか心が和む。
周りはビルに囲まれ、自然豊かな緑があるとは言い難い。それでも緩やかで優しい風を感じたような気がした。