もしも世界が終わるなら

「もしも世界が終わるなら」

「え? ああ、あの電車の広告?」

「はい。もしも世界が終わるなら、そのときは私をひとりにさせてもらえますか?」

 しばらくの沈黙のあと、静かな声が届く。

「どうして、と聞いても?」

「自分を、見つめ直したいんです」

 再びしばらくの沈黙。それから、優しい声の答えを聞く。

「見つめ直してもいいと思う」

 すんなりと聞き分けのいい返事が聞けて、いささか拍子抜けする。

「ただ」

「ただ?」

「見つめ直している間、俺はきみの隣にいたいな。倉持さんは心配だから」

 少しだけ居心地の悪そうな声色に、思わず笑みがこぼれる。

「ふ、ふふ」

「どうして笑うの」

「私、無事にひとり旅できましたよ」

「ああ、そうだね」

「いい大人ですから」

「うん。そうだね」

 心地のいい無音の時間。私はもう一度、誰かとそんな時間の過ごし方を続けていけるのだろうか。今度は嘘偽りのない形で。
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