もしも世界が終わるなら
様々な思いを抱えながら、記憶を頼りに『田の道』という地名の場所でバスを下車した。
時刻を確認しようとスマホを見てみると、画面にポップが表示されており、トークアプリの受信を知らせている。
『柴山美月』の名が、どこか夢見心地の過去から、現実世界へと引き戻す。
不意に人の気配を感じ、慌ててスマホをバッグに押し込んで後を追う。滅多に人に会わない田舎道。ここで声をかけなければうろ覚えの記憶を辿り、歩き回らなければならないだろう。
「すみません。あの、椎名穂高という方をご存じないですか?」
振り返ったのは、私と同じ歳くらいの青年。眉をひそめ、不躾に視線を足先から頭の天辺まで這わせる。田舎特有のよそ者への強い警戒心を感じ、思わず後退る。
「……千生?」
「え?」
言葉を失い、食い入るように彼を見つめる。けれどまさか、そんな。面影を探そうと、奥底にしまいこんだ記憶の蓋を開ける。