今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「目がとろんとしているね。もしかして、お酒に弱い?」

今さら悪びれる彼の態度はちょっとわざとらしい。

テーブルを回り込み隣にやってきて、私の腰をごく自然に抱く。

見上げれば、そこには艶っぽい表情。彼はお酒を飲んでいないのに、まるで酔ったような目をしている。

まるで獲物を狙う目だ。理性が機能していない、情欲的な眼差し。

「西園寺先生、覚えてますか、約束。なんにもしないって」

「なんにもしないとは言ってない。きちんと同意を取るって言った」

彼が顔を近づけてくる。逃さないというように私の顎を押し上げながら。

「早速だけど、キスしていいかな?」

直接的な単語を耳にして、鼓動がばくばくと速まる。

ときめいている自分に気づきながらも、必死に言い訳を考えていた。

きっとアルコールで心拍が上がっているだけ、恋なんかじゃないのだと。

思考力の落ちた頭で、なんとか逃れる方法を模索する。

「……ダメに決まっているじゃありませんか。お付き合いしてもいないのに、いきなりキスなんて……」

彼の手をすぐさま振り払わなかったのは、泥酔による判断ミスだ。

そんな中途半端な態度が脈アリと思わせたのか、彼は距離を詰めてくる。
< 102 / 275 >

この作品をシェア

pagetop