今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
思わず目を開けると、悪戯っぽい表情の彼。

頬に触れる彼の指先の冷たさから、自分の顔が熱くなっていることに気づかされる。

「俺の言いたいことがわかった?」

耳の奥をくすぐるような、甘ったるい声。

わかってしまった。キスが嫌だと思っていない自分に。

彼の眼差しに絡めとられることを、心地よいと感じてしまうことにも。

私だけを見てくれているという事実が、こんなにもうれしいのだと。

「鈍感みたいだからはっきりと言ってあげる。君は俺に惹かれているよ。ただ自覚がないだけで」

わっと全身が火照り出す。うまく否定の言葉が出てこなかったのは、シャンパンを飲みすぎたせいか、あるいはすべてが図星だからか。

「杏」

不意に名前を呼ばれ、胸が高鳴る。『ちゃん』をつけられていたときよりも、ずっと耳触りがよくて、彼の声をもっと聴きたくなってしまう。

「残念だけど、俺はあまり優しくないんだ。好きな子はいじめたくなっちゃうタイプでね。だから今日は、キスまでしかあげない」
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