今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
第四章 本当は逢いたくて
取材から三週間。書き終えた記事を真っ先に見せたいと思っていた人がいる。

八年前、事故で大怪我をして音大を中退した私は、出版社でアルバイトをするようになった。

そのとき、親から勘当されて行く当てのなくなった私を家に住まわせてくれた恩人。

当時の女性編集長、百合根(ゆりね)さんだ。

三カ月前、出産と同時に出版社を退職した彼女は、今は生まれて間もない赤ちゃんの育児に専念している。

現在、百合根さんの住まいは子育て世代が多く住むマンション。都内にある3LDKで、旦那さんがローンを組んで買ったそうだ。

本当は自分も一緒にローンを組んで一軒家を買いたかったそうなのだが、すでに妊娠していた彼女は、編集長として働き続けることに限界を感じ、前線離脱することを決意したのだそう。

バリバリ稼いでいた彼女だが、今では稼ぎゼロに。

働いていたときと見た目からして変わっている。

以前はパーマの強いロングヘアーに、濃いめのメイク、ブランドの服で全身を固めていた彼女だが、今はさっぱりとしたショートボブ、ナチュラルメイクにゆったりとしたニットのワンピースを着ている。

纏う空気も穏やかになり、まるで人が変わったようだ。これはこれで素敵な女性ではあるけれど。
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