今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「あのあと、病棟で軽く伝説になったんだよ。触発された患者さんが、妙にリハビリに積極的になったり」

「……本当に、お恥ずかしい限りです……」

「褒めてるんだよ。病棟にはどうしても、怪我をして落ち込んでいる患者さんが多いからね。『助かってよかった』よりも『どうして自分がこんな目に』と思ってしまう」

確かに多くの事故は不運なもの。嘆く人は多いだろう。

それに、リハビリはつらい。痛みもあるし、うまく動かない体と向き合うことで自分の無力さをいっそう痛感することになる。

以前はあんなに簡単にできていたことが、どうして今の自分にはできないのかと。

完治するという保証もない。

それでも私は、事故を経て自分が生きていたことに心底感謝した。

なにしろ、自分が乗っていた自転車はワゴン車に押しつぶされて原形をとどめていないほどぐしゃぐしゃだったのだ。事故後の写真を見てゾッとした。

私を轢いた車の運転手は、絶対に死んでしまったと思ったそうで、生きていてくれてよかったと泣きながら謝罪にきた。

「まだまだ、やりたいことがたくさんあったので。私には」
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