今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「そんなに、自分を責めないで」

「杏……」

彼は驚いたように目を見開いたけれど、やがて肩の力を抜いてふっと息を漏らした。

「君は知らないだろうけれど。俺は、いつでも君の言葉に救われているんだよ」

「え……?」

彼の両手が伸びてきて、私の頬を挟んだ。

……冷たい。あまりにも冷え切っている指先に、私は手を添える。

こんなにも自分を虐めて、罰でも与えているつもりだろうか。

「……もう。こんなにかじかんだ指で、患者さんに触れるつもりですか」

彼の両手を掴み丸め込んで、温かくした息を吹きかける。ダメ、全然効果がなさそう。早く室内に戻ったほうがよさそうだ。

「中に入りましょう」

そう言って彼の腕を引き、屋内へ戻ろうとすると。

「待って、杏」

不意に呼びかけられ足を止めた。振り向いた瞬間、強く抱き竦められ、顔が彼の胸に埋まる。

「西園寺先生――」

振り仰いだそのとき、端整な顔が近づいてきて、私の唇を奪った。

……冷たい。触れた唇も、指先も、まるで彼の心を投影しているかのように冷え切っている。
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