今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「別れてほしいと? そういうわけにも。杏さんはお見合いなどするつもりはありませんし、もちろん――」

言葉を切って私を見た。まるで、心して聞けとでも言わんばかりに。

「私も杏さんを手放すつもりはありませんから」

その眼差しが鋭くて、驚きにびくりと震え上がる。

まさか、本気で言っているわけではないよね……?

彼は私の見合いを断ってくれようとしているのだろう。

本心ではないと理解しつつも、今の目はとてもお芝居とは思えなくて、胸がかき乱された。

「お相手の方には丁重にお断りを入れておいてください。あ、ちなみに――」

ふと西園寺先生がなにかを思いついたかのように頭上を見上げる。

「お母さんが心配されている年収一千万は軽く超えておりますのでご安心ください」

小馬鹿にするようにクスクス笑って通話を切る。唖然とする私にやっと携帯端末を返してくれた。

「な……なにを……」

開いた口が塞がらない。いったいどうして付き合っているだなんて嘘をついたのか。

「なにをって。断りたかったんだろう? 見合い。だったらこうするのが一番スムーズじゃないか」

「す、スムーズって! バレたらどうするつもりなんですか! 本当は付き合ってもないのに――」

「まぁまぁ落ち着いて、あんずちゃん」
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