今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
このままじゃ終われない。絶望の淵を見たからこそ、これからの人生、精一杯生きようと思えた。

進路を決めたのもあのときだ。それまでは、親に指示されるがまま生きていたけれど、自分がなりたい職業――ライターを目指そうと思ったのは、あの出来事があったからだ。

母は事故後、娘がまったく親の意見を聞かなくなったことに、事故の後遺症で頭がおかしくなったんじゃないかなんて言っていたけれど、単に自分を押し殺すのをやめただけだ。

「君みたいにポジティブな患者さんを見ると、俺たち医師はすごく励みになる。この仕事をやっててよかったって思えるんだ」

眞木先生の優しい笑顔に、また少し心が救われる。

あのとき頑張ってよかった。今、好きなことを思う存分できる自分は、しあわせものだと。

「それで、俺になにを聞きたいの? 女性向けの雑誌の編集部に勤めているって言ってたっけ?」

「あ、はい!」

そうだった、肝心の取材をしなくては!

私はトートバッグの中から見本誌を取り出した。

月刊誌『ブリリアントウーマン』――昨年創刊したばかりの、アラサー女性をターゲットにしたビジネス情報誌だ。

経済やマネー情報ももちろんだけれど、健康や恋愛、流行アイテムのトピックなんかも掲載している。
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