今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「そんな賭け、するわけないじゃない」

私は彼の下から這い出し、乱れた服を直しながら、灯りのついたリビングへ戻ろうとした。

しかし、うしろから腕を掴まれ阻まれる。

振り向けば、リビングから漏れる明かりが彼の真剣な顔を照らしていた。

「杏。俺の子を産んでくれ。もちろん、ちゃんと父親になるって約束する」

プロポーズを飛び越えて、子作り宣言!? 

いきなり妊娠してだなんて、そんな無茶苦茶な要求、私が呑むと思っているのだろうか。

大きく首を横に振ると、腕を引かれベッドにすとんと座らされた。

「杏は、子どもが嫌い?」

「そういうことではなく」

だいたい、西園寺先生とお付き合いもしていないのに、いきなり出産なんて、考えられるわけがない。

不満を込めて見つめると、彼はふんわりと目を細め、優しく笑った。

「俺は、杏が俺の子を産んでくれたらうれしい。きっと」

純粋な笑顔を向けられ、毒気を抜かれる。

どうしてそんな顔でうれしいだなんて口にするの? 将来を約束した中でもないのに。
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