今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「どうして……そんなに子どもが欲しいんですか?」

見合いを断りたいだけなら、そこまでしなくてもいいだろう。お付き合いしている女性がいる、そう説明するだけで済むはずだ。

子どもを作ることにこだわるのはどうして?

胡乱気に睨むと、さすがの彼も困ったように苦笑した。

「誰の子でもかまわないって思ってるわけじゃないよ。君だからこそ頼んでいるんだ。信頼できる異性に出会うのって、結構むずかしいことだと思わない?」

「信頼……?」

「杏となら、俺の理想とする家庭を作れそうな気がした。……それじゃ答えにならないかな?」

誠実な言葉を投げかけられ、彼との未来を錯覚してしまいそうになる。

私と、子どもと、西園寺先生のいる未来――。

彼が私の手をとって、その甲にそっとキスをした。

まるで本当に、将来を誓い合った相手であるかのように、彼の姿が愛おしく思えてきて――。

「杏。俺の子を妊娠してほしい」

気がつけば、拒めなくなっていた。

直感だろうか。彼ならば私のお腹に命が宿ったとしても、大切にしてくれるような気がしたのだ。

なにより、子どもを産んでほしいなんて言ってくれた人は――そんな覚悟を持って私と向き合ってくれた人は、初めてだったから。

彼のシャツをきゅっと握り締めると、この気持ちが伝わったのか、私の額に優しくキスを落としてくれた。
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