今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「本当は食事のあとゆっくり渡そうと思っていたんだけれど、先に誤解を解いたほうがよさそうだ」

そう言って彼がポケットから取り出したものは、レザー素材でできた小さな小箱。

まさかエンゲージリング!?と直感し息を呑む。

しかし、小箱を開いてもらうとそれはリングではなく、ダイヤモンドそのもの。クリアガラスの下に大きなダイヤがはめ込まれていた。

「これは……」

「婚約指輪――を作る前の段階。リングデザインは君に選んでもらったほうがいいと思って。サプライズもいいけれど、ジュエリーは好みも大事だから――ってことで、ダイヤだけ取り寄せたんだ」

唖然として口を手で覆う私の前に、彼はダイヤを差し出す。

「やっぱり求婚はダイヤがないと箔がつかないよね。コレ、やりたかったし」

彼がケースをあらためてパカッと開く。プロポーズのときによくやるアレだ。

そして、ダイヤを差し出したまま動きを止め、急に真面目な顔をした。

「杏さん。俺と結婚してください」

突然のことに面食らって、パチパチと瞬きする。

『杏さん』なんて呼ばれたことは、今まで一度もなかった。

普段の彼とも、医者であるときの彼とも違った真摯な眼差しに、呼吸が止まりそうになる。
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